例の魔王と勇者のあれを読んだ感想。

感想

(ぼかしたネタバレあります)


どうせちょっと凝ったSSだろうと思ったが全く違った。
経済を扱ったアレであるとか
異能者を扱ったアレであるとか
世界の覇権を扱ったアレであるとか
面白い本は沢山あったけれど
この作品に勝る物語はここ最近では正直無かったなと個人的には思う。
(個人的に学園物が食傷気味というのも……また上のリンクにあるような”人生を変える”のかどうかも分からない。人生に”役立つ”という意味では古典的名著の方が応用も効きそうな気も)
なぜなら軍事・経済・金融・農業・工業・商業・統治・土木・民族・神話・歌・幸福・恋愛・食べ物・貧困・病気
どれか1つとっても大作品になりそうな(なってしまいそうな)個性の強いテーマなのに
その全てが折り重なって初めてたどり着ける壮大な物語になっていたからだ。
大体のライトノベルは恋愛・軍事・神話このくらいをまとめるので精一杯で、
平易な文章で楽しい”物語”でこれを全てまとめ成し遂げたとあれば
暴れ馬数頭を乗りこなすに等しい能力に思える。
また知識としては存在したが理解に至らない経済概念を
読むという追体験を通してようやく得心できた場面もあった。
ある意味、教育(作中に出てきた意味でも)とはこういうものなのかもしれない。


他にもこのお話が他の作品より秀でている点としては
途中経過を飽きさせない点にあるように思える。
綿密なプロットを作り読者の想像を裏切る作品は沢山あるが
最後のどんでん返しを立派にすればするほど
途中の転換点での無理や飽きや破綻が出てくるように思える。
その点この作品はそこら中が転換点であり伏線でありどんでん返しなのだ。
もちろんファンタジーとして科学的に無理があったりご都合展開はあるが
それすら必要だと思わせるような”型”にはめ込む力は一体どういうことなんだろう。


思うにこの物語自体が枠組みそのものなんだろうと思う。
プロットの枠組みの想像も付かないような壮絶な組み合わせの妙技を見ている気がする。
その最たるはキャラクターの名前なのだと思う。
彼らは名無しであり枠組みそのものであるんじゃなかろうか。


作者さんの膨大な知識だとか文才があるとか以上に作品世界そのものに魅力を感じてしまう。
もちろんそれを狙っての馴染みの深いあの設定なのだろうけど、
それすら計算でやっているのだとしたら恐ろしい。
少なくとも他の名だたるプロが現実的にやり得なかったのだから
それだけでも大変な価値があるように思える。



こういうのこそ電子出版があってるのになと思ったら
Togetter - まとめ「桝田省治氏による『魔王勇者』書籍化プロジェクト進行中」
すでにあった。
でも書籍かぁ。
ネットに存在する物をわざわざ活版印刷するというのもなんだかそろそろって感じもするけど。


そういえばこの物語に悪い点は無いのかというと
一つ思いつくのは
とにかく長い、ということ。
そりゃ既存の大小説に比べると短いかもしれないが
形式上内容の濃さとしては相当な物だと思う。
ディスプレイでマウスをくるくるスクロールして読むのは
目もしばしばしてくるし人差し指も痛くなってくるし
やっぱりこういうのこそ手軽にiphoneなんかでさくっとぱっぱっぱと画面を切り替えられたら良いのに。
その価値は十分にあると思う。
なんといっても読んでて楽しい物語だから。